カンボジアの澄んだ瞳

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岐阜支部の福蔦優樹も第2期指導員としてカンボジアで指導した
 
カンボジアで行なわれたセミナーの参加者とともに
 
初めて行なわれた昇級審査で、三好副代表に帯を贈呈されたカンボジアの生徒たち
 
 
第1期としてカンボジアを訪れた杉原指導員
 
帯を授与されると、第4期の中嶋指導員と抱き合って喜んでいた
 
 
カンボジアでの朝稽古
 
カンボジアには、ゴミを拾い、そのゴミを売って生活している子供たちもいる。ゴミ広場を見学した講師たち
 
 
杉原指導員は演武会も実施

悲しい歴史

中込 JHPがなぜ、メインの活動として学校を作っているかというと、カンボジアはポルポト政権下にあった75〜79年の間に、国の約三分の一の人口である170万近くの国民が亡くなったという歴史があります。ポルポトは知識階級が自分の地位を脅かすことを恐れ、先生や医者など、知識のある国民を殺したのです。そして学校は、強制収容所や刑務所のために使われるようになりました。80年代後半から、やっと和平の機運が高まり、その後、日本の自衛隊がPKO活動を行なうなどして、93年にようやく再び独立しました。平和になってから15年ですから、まだまだカンボジアには支援が必要なんです。

三好 空手は格闘技ですが、稽古の中で蹴りや突きを受けて痛みを知り、修行する中で、「強くなったんだから弱い人をいじめてはダメだ」という優しさを知り、“感謝”の意味を知ることができるはずです。このような悲しい歴史を持つカンボジアで、我々の指導員が日本の心を伝えようとしている姿を見て、ひじょうに大きな役割を持っていると感じました。

中込 JHPでは音楽教師の育成の他にも、絵の授業を行なっています。カンボジアはクラブ活動をする余裕がなく、情操教育は学校教育の中でまだ取り組まれていない分野です。この分野の先生を育成しないと、読み書きだけの教育では心が貧しい子供がでてくるのでないかと感じています。そこで、現地に送った中古の楽器を使って、マーチングバンド活動を行なっていて、学校の授業以外に将来の夢につながっていくことを願っています。夢の選択肢が増えることで、空手を含めてさまざまな分野の先生が育っていけば、将来カンボジアからもいろいろな専門家が出てくると思います。

中嶋 子供たちもみんな、副代表が審査をしてくださった後、「空手をやってて良かった」と言っていました。「将来、黒帯を取って空手の指導員になりたい」という子供も出てきましたし、自信をつけることが夢につながるんだなと本当にうれしく思いました。一つのことを継続し、目標を達成できれば、それが自信につながるのはどの国でも同じなのですね。

三好 新極真会として、これからも指導員を派遣することはもちろん、現地の子供たちが日本に来た時に、稽古のできるような施設や宿舎などを作れるように頑張っていきたいです。

中込 現地の子供たちが日本で学んだことを、また現地に持って帰って、どんどん自分たちで自立できればいいですね。マーチングバンドは今秋、30人ほど来日する予定です。孤児院CCHの子供たちも含めて、舞踊を披露するために招こうと企画しているんです。

指導員の心を変えた経験

三好 私はどうしても見て欲しいと言われて見に行ったゴミ山で、子供たちがゴミを集め、それを売って生活しているのを見て、衝撃を受けました。こういった国で現地の指導員が育つように支援をして、カンボジア人が自分たちで次世代の教育ができるように、日本の武道の心を広め、争いやいじめのない国にできれば、どれだけ子供たちの生きていく励みになるかと思います。子供たちの澄んだ目、生きていくために頑張っている様子は、行った人にしかわからないでしょうが、その目的に向かって一緒に頑張っていきたいです。

生きるだけでも精一杯なはずの子供たちのこれほど澄んだ瞳。新極真会は、彼らに夢や希望を与えるべく、これからもカンボジアへの支援をつづけて行く


 

中込 すごい素質を持った子供もたくさんいるんでしょうね。プロになれるような子供たちもたくさんいるはずなのに、その手段がなく、評価もされないまま、生きていくだけで終わってしまう。

三好 審査をしていても、センスはあるし、空手が大好きなんだなという子供もいました。指導員が帰国したら、この子たちはかわいそうだなと心配でなりませんでした。ですから、現地で指導できる人が早く育つように援助していきたいですし、このようなところへ、若い日本の指導員はどんどん行くべきだと思います。必ず日本での指導にも生きてくるはずですから。

杉原 私も、行って本当に良かったと思っています。逆に、修行として学ばせてもらったことも多いですね。日本のように物はなく、食べるのも精一杯という状況ですが、みんな目の輝きが違い、一生懸命に生きている。武道精神を伝えに行ったこちらが、逆に現地の子供たちのたくましさを知り、日本の子供たちに伝えていかなればならないと思いました。日本がせっかく持っている素晴らしい大和魂や武士精神をもって世界をリードしていけるように。また、新極真会が世界の平和に貢献できるように。カンボジアから帰国してから、心を伝えることが大事なんだと、自分自身の指導でも今まで以上に心がけるようになりました。空手で培ったものを、弱い人のために役に立てられるようになるには、強くなくてはいけない。だから、当然厳しく指導もしますし、あたたかく見守るように指導するようにもなりました。岐阜支部の福嶌君は、大学在学中の04年、第2期指導員として指導に行きましたので、私よりたくさんのものを得て、今の稽古にも生かせているようです。

中嶋 僕も海外に行ったのが始めてということもあり、変わった点はたくさんありますが、一番は日本人としての自覚でした。現地では「日本人=僕だったんです。唯一映るNHK番組で京都の桜を見て、日本は本当に美しい国だと感じましたし、ニュースを見ていても外から日本を見ることができ、良いところと悪いところを客観的に見ることができました。日本に対する愛国心を持つことができたんです。あと、いかに日本が物に恵まれているかを感じました。道場に行けばミットもサンドバックもあるのが当たり前の環境ですから。自分はカンボジアに行ったことで弱くなったと思われることが絶対にイヤだったので、物もない、指導してくれる先生も仲間もいないという中で、工夫して自主稽古をしました。以前は指導するとき、自分が教わったことや技術だけを伝えていく感じでしたが、今ではどんな環境でも稽古ができ、強くなることで自信にもつながる、優しく人にも接することができる、ということに重点を置いて指導をしているように思います。

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空手LIFE 2007年8月号より

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