カンボジアの澄んだ瞳

ページ1
「JHP・学校をつくる会」の協力で、約4年前からカンボジアで空手指導を行なってきた新極真会。三好一男副代表、第1期指導員としてカンボジアでの指導に当たった杉原健一・東京吉祥寺道場責任者、第4期の中嶋幸作指導員、そしてJHPの中込祥高事務局次長が、事務局のある「みんなとNPOハウス」にて、カンボジアの学校について、教育について、新極真会ができることについて語り合った。

出会い、そして活動開始

杉原 以前、国際女子大会が開催された際に、大会を後援してくださった岐阜県の加納ロータリークラブのメンバーの方が、たまたまJHPに協力し、カンボジアに学校を作っていたんです。岐阜支部の柳瀬(聖人)師範を中心に、組織内でも海外で空手を生かした国際協力活動を行ないたいという話をしていた時に、加納ロータリークラブさんを通じてJHPと出会ったんですね。

中込 たまたま私も97年に、ロータリークラブの支援で行なわれた小学校でのブランコ作りに参加したことがありました。その後、こうして新極真会の方々と出会い、これまでの人間関係がすべてつながっていると感じました。

杉原 新極真会がカンボジアで指導を始めたのが03年8月で、私が第1期の指導員として派遣されました。ちょうどJHPが毎年2回派遣しているブランコを作る学生ボランティアの8月隊と同時期で、しばらくは一緒にブランコを作る手伝いをしながら、指導場所探しから始めました。そしてJHPの現地駐在員の方を通じて、タケオ県の教育局長の方を紹介してもらい、高校の運動場で稽古させていただくことになったのです。

「JHP・学校をつくる会」の事務局は、学校の元校舎を再利用した「みなとNPOハウス」内にある
 

外なので、雨が降るとぬかるんで、生徒が蹴りを出すと一緒に泥水が飛んだり、放牧されている牛の糞を踏んだりと、「本当にすごいところで稽古をするんだな」と思いました。しかし、「空手がどこでもできるいい経験だ」と思って続けました。そうして活動するうちに、盆踊りのイベントでJHPが支援する孤児院CCHと出会いました。元気な子供たちのすごいエネルギーに感動し、「ぜひ空手を教えたい」と思い、JHPの許可を得て、その孤児院で教えることになりました。外のコンクリートの広間で、雨が降ってもそのままでの指導が始まりました。

中込 私は指導の様子を直接見たいことはありませんが、下は6〜7歳くらいから30人ほどの生徒が、元気良く練習をしている姿を写真で拝見しました。

初めての昇級審査

中嶋 僕はもともと空手で海外に行きたいという希望があり、青年海外協力隊など、その可能性をずっと探していました。そこでたまたま「カンボジアはどうだ?」というお話をいただき、第4期の指導員として、05年に派遣されました。10日間ほど現地で引継ぎを行なってから、自分の指導のリズムを作り、だんだんと稽古に来る人数も増えました。そこで、「昇級審査をやってみてはどうか」という話が出たんです。空手をまったく知らない子供が、昇級審査を受けられるまで上達するように、日本人留学生にも協力していただきながら、現地の言葉で空手の教科書を作ることから始めました。礼の仕方は説明できても、「なぜ礼をしなければならないのか」ということは簡単には説明できません。技術的なことは稽古で上達しますが、精神的なことは違います。このような活動をする中で、三好一男副代表に、昇級審査に来ていただけることなったのです。

三好 新極真会は理念にもあるように、強くなればなるほど弱い人たちに優しくなければならないと思っています。「日本にいる私たちには何ができるのか」と考えた時、この二人の岐阜支部の福嶌(優樹)君がボランティアで頑張って指導したカンボジアの子供たちに、何としても昇級審査をしてあげたいという気持ちで行きました。いろいろな文化の違いを持つ国の子供に、「どうして挨拶をするのか」「なぜ汚れた足のままで道場に戻ってきてはダメなのか」という日本の文化を伝えようと奮闘する指導員の活動を見て、昇級審査を行なって良かったなと思いました。また、食べるものも着るものもなく、空手をする以前に生きていくこと自体が大変なところで、何でも物を与えるのではなく、心と心で一緒に汗を流し、同じ目線に立って、武道を通じて心を伝えることが必要だと感じましたし、昇級した子供に帯を巻いてあげた時の彼らの心からの笑顔を見たら、来て良かったなと本当に思いました。

中込 JHPでは、現在、子供たちに音楽などの芸術分野を指導する指導者の育成も行なっています。最初は日本から人材を派遣して指導をしていたのですが、そうすると子供に直接教えてしまうので、指導者が帰ってしまった後の活動につながらないということもあり、音楽の教科書を作ったり、現地の先生を育成する活動を始めました。現地の先生がしっかり教えられるようにならなければいけないんですね。現地の子供たちとは、一緒に何かを作ったり、交流したり、物をあげたりする以前に、人間と人間が同じ目線で「共に生きていくんだ」という気持ちを持つことが大切です。決して何かを与えに行くのではないということは、ボランティアで行った学生たちが一番良くわかっていると思います。

三好 物をあげるという一時的なことより、空手を指導するとか、生きていく励みになるような何かを教え、現地の人が自分たちで指導できるようにしてあげたら、自立できますしね。私は以前、青年会議所の活動でフィリピンに井戸を掘りに行ったことがあります。そこは、子供たちがバケツを持って何kmも歩いて水を汲みにいかなければばらないという村でした。運動設備もないので、バスケットコートを作る活動もしました。彼らが自立できるような環境を、私たちが協力して一緒に作ることが大切なのですね。恵まれた日本人は発展途上国の人々が生きる励みになるような手伝いをしていかなければならないと思います。空手の指導を通して、強くたくましく、そして優しい子供を育てつつ、現地で指導者がリーダーになれるような人材を育てる。これが日本のするべき援助ではないかと思います。

次のページへ>>

空手LIFE 2007年8月号より

年間イベント一覧