第4回カラテワールドカップ

2009年6月20-21日 ロシア・サンクトペテルブルグ


Photos:林田哲臣、福地和男 Text:米山祐子、本島燈家


男子部門の優勝者。左からヴァレリー・ディミトロフ(重量級)、ローマン・ネステレンコ(中量級)、ドミトリー・モイセイエフ(軽量級)

世界のKARATEは、
想像を超えるスピードで進化していた ─。



入賞した日本人選手たち。後列左から、塚本徳臣(重量級準優勝)、菊原嘉章(軽量級準優勝)、島本一二三(中量級4位)、山野翔平(軽量級4位)。前列左から、佐藤弥沙希(女子中量級優勝)、兼光のぞみ(女子軽量級準優勝)、福田美み子(女子重量級4位)、光部和子(女子軽量級3位)

佐藤、涙の2連覇達成!
兼光は決勝でカザフの女王に敗れる

女 子

女子軽量級決勝
○マリア・グリドネヴァ<カザフスタン>
VS
×兼光のぞみ<日本>
本戦0-0、延長2-0、再延長5-0
女子中量級決勝
○佐藤弥沙希<日本>
VS
×エディット・アブラハム<ハンガリー>
本戦4-0
女子重量級決勝
○マルガリータ・キウプリート<リトアニア>
VS
×ヴィヴィアナ・アレクサンドラ・チリラ
<ルーマニア>
本戦4-0

涙が止まらなかった。しかしそれは、喜びの涙ではなかった。こんな形で終わりたくはない。悔しい。もう一度やりたかった─。

日本代表選手団の中で、唯一王座を守り、2連覇を達成した佐藤弥沙希。決勝戦は“女帝”ヴェロニカ・ソゾベトスの妹分であり、ヨーロッパ大会2連覇中のエディット・アブラハムと闘った。エディットはパワフルな突きを佐藤のボディや胸へ連打で浴びせていく。その突きが佐藤の顔面に命中。崩れ落ちる佐藤。注意1。再度、同じことが起こり、アブラハムの減点1で試合が決まった。素直に喜べない勝利だった。

軽量級では、兼光がカザフの女王マリア・グリドネヴァとの決勝に臨んだ。マリアの懐に飛び込む兼光。マリアは金光に覆いかぶさるような形で、突きやヒザをボディに叩き込む。兼光は得意の蹴り技を出し切れずに、闘いを終えた。

ヴェロニカが引退し、次なる女帝の座を狙う海外勢の躍進も目立った女子部門。そんな新しい波の中で、日本勢は4人が入賞を果たした。心に残った悔しさは、2年後に爆発させてほしい。



佐藤は突きと下段で手堅く攻めていった。しかし本戦の途中、顔面殴打でエディットに減点1が宣告される。不完全燃焼の勝利に、悔し涙が止まらなかった。
 
兼光は、出産により戦線を離脱していたマリアと決勝を争った。胴廻し回転蹴りなどで、最後まで逆転を狙っていた。

佐藤が日本代表選手団の中で唯一の優勝を勝ち取ることに成功した。
 
軽量級は兼光が準優勝、光部が3位と健闘。

重量級の決勝は、マルガリータとヴィヴィアナが対戦。レバーを狙った下突きとヒザ蹴りで主導権を握り、マルガリータが勝利。破壊力バツグンの攻撃は圧倒的だった。
 
重量級は、福田美み子が4位に入賞

軽量級では光部和子が準決勝でマリアと対戦。最終延長までもつれ込む接戦を見せたが、最後はマリアに連打を許し敗退となった。
 
中量級の体格ながら重量級に挑んだ福田美み子が準決勝でヴィヴィアナと激突。最終延長までもつれ込んだ接戦に1─4で敗れる。

最大のピンチの中、
塚本が魔人ドナタスに勝利

主将・野本は、無念の二回戦敗退

男子重量級


初日の大きな波乱だった日本チーム主将・野本尚裕の敗退。二回戦(一回戦は不戦勝)、強豪アルチュシンに下段を効かせながらも、延長1─3の僅差でトーナメントから姿を消した。

日本にとって最大級の痛手となったのは、主将・野本尚裕の初日敗退だろう。世界屈指の下段蹴りを誇る重量級王者は、王座死守のキーマンであり、精神的支柱とも言える存在だった。

カザフの重量級エースであるウラジミール・アルチュシンは強敵だったが、野本の下段は確実なダメージを与えているように見えた。しかし、延長で僅差の判定負け。野本は「骨まで入るような下段は一発も当てられなかった。自分の組手じゃなかった」と試合後に告白した。野本ほどの男が力を発揮しきれない。これが、アウェーの怖さなのかもしれない。

準々決勝に進出した渡辺大士も、初日の二回戦で深刻なダメージを負っていた。歩くのも困難なほど左ヒザを痛めてしまったのだ。それでも舞台に上がり、下段などを積極的に繰り出していった精神力は称賛に値する。だが、世界大会5位の実績を持つマキシム・シェヴチェンコは、その弱点を見逃さなかった。左の内股蹴りを食らい、渡辺は力尽きる。


最大の難所とも言えたドナタスとの準々決勝。塚本は絶妙な距離をキープしながら、時おり一気に間合いを詰めて技を叩き込んだ。
男子重量級準々決勝
○塚本徳臣<日本>
VS
×ドナタス・イムブラス<リトアニア>
本戦0-0、延長0-1、再延長0-1
体重89.4-114.1

ほとんどの選手が敵地で思わぬ苦戦をしいられる中、何とか勝ち上がっていったのが塚本だった。準々決勝ではリトアニア最強の“魔人”ドナタス・イムブラスと対峙。ヒット&アウェー戦法で舞台を縦横無尽に駆けめぐった。第9回世界大会、第3回ワールドカップで準優勝に輝いたドナタスが、この動きにほんろうされる。強烈な突きやヒザで圧力をかけるドナタス。それをことごとくかわし、上段や後ろ蹴りなどを放つ塚本。そんな展開が再延長まで続いた。この試合に向けて、塚本はスピードを重視した体づくりをしてきたという。それが世界トップレベルのパワーを封じ込んだ。

「とにかく自分の組手に徹しようと思っていた」という塚本。一方、自分らしさを殺され、体重判定で敗れたドナタスは「楽しい試合だった。塚本選手は私にとってはスターで、今日は夢が叶ったという感じ」というコメントを残した。また、この試合を見たヴァレリーは、「ドナタスを相手に、あんなリラックスした闘いができるのは塚本選手だけ」と評した。

つねに日本を脅かしてきた巨大な山を乗り越えた塚本。会場を揺るがす大きな1勝だった。



強烈なプレッシャ−をかけてきたドナタス。本戦、延長、再延長と塚本はこれを何とかしのぎきった。
 
判定に響くほどではなかったが、上段廻し蹴りがドナタスの顔面をとらえるシーンも。

初日に左足を痛めた渡辺は、二日目初戦の準々決勝でマキシムと対戦。痛みをこらえて技を繰り出したが、強烈な下段を浴びて一本負けを喫した。
 
初日の二回戦で08年のヨーロッパ重量級王者であるリトアニアのルーカス・クビリウスと対戦した渡辺。パワフルな技を浴びながら体重判定で勝利したが、この試合で左ヒザを負傷。

ヴァレリーの準々決勝の相手は、カザフのウラジミール・アルチュシン。野本戦で足にダメージを負ったアルチュシンに対し、カカト蹴りを含めた下段を連発して本戦勝利。
 
サムは準々決勝で、リトアニアのダリウス・クダウスカスを下す。二回戦でも同国のミンダウガス・パヴィキオニスに勝利し、殊勲賞級の活躍だった



入賞者と世界の支部長たちの記念撮影。大会は大成功だった。


三好一男 副代表コメント

日本代表の結果は残念でしたが、大会は大成功でしたね。これでまた世界の横のつながりが深くなって、さらにいい組織になっていくのはではないでしょうか。

日本人選手も稽古で本当に追い込んで、海外勢に負けないぐらいにがんばってきたと思います。ただ、外国人選手の進歩は、それ以上に著しかった。これだけがんばってきた日本の選手に「もっとがんばれ」というのは酷ですけれども、それを言わなきゃいけないつらさがあります。

厳しい闘いになることは予想していましたが、思った以上に厳しかったですね。日本のエースである山田選手が、アウェーの闘いで体が別人のように動かない。重量級でも、期待していた阪本選手、野本選手、逢坂選手、前川選手などが初日で消えてしまった。彼らが勝ち上がっていたら、かなり流れが変わっていたと思います。結果として、塚本選手に頼らざる得なくなってしまった。塚本選手にも気の毒だったなと思います。

ヨーロッパやロシアの選手は、毎年前半にヨーロッパ大会などの厳しい闘いを経験しています。一方、日本人選手の多くは、代表権を獲得すると試合から遠ざかってしまう。だから、試合感覚という点でも危機感を感じてはいました。軽量級の菊原選手の調子がよかったのは、4月に全関東大会に出場したことも大きかったのかもしれない。彼はそこで負けたことによって、試合勘が鈍っていることに気づいて、一層稽古したのではないでしょうか。

山野選手も惜しかったですね。3位決定戦は勝つかと思いました。また、中量級の島本兄弟。彼らはユースの星ですね。日本人選手の中でも、一番落ち着いていたのは彼らのように見えました。あの物おじしない性格には、大物の匂いを感じます。これから新極真を背負う存在になるでしょう。他にも河瀬兄弟、愛知の加藤兄妹のように家族ぐるみでがんばっている選手たちがいますが、ぜひ彼らにも世界を見すえてもらって、もっともっと伸びていってもらいたい。そういう意味では、希望がないわけではないんですよね。すばらしい若手が育ってきていますから。今大会も初日はどうなることかと思いましたけど、二日目は少し光が見えてきました。

今回悔しい思いをしたメンバーは、負けた原因をしっかり分析して、素直に反省して、またがんばってもらいたいですね。敗北をバネにして、初心に帰ってやり直す必要があると思います。そうしないと、これからは世界に勝てなくなってくるかもしれません。軽量級で優勝したモエイセイエフ選手、中量級の決勝を闘ったローマン選手やマリウス選手、重量級のヴァレリー選手。このあたりの選手を破るのは大変だと思います。

2年後の世界大会も、正直心配です。もっともっと若手を育てて、各地域で合同稽古などもしていかないと、海外の進歩にはついていけないでしょう。審判をしていても感じました。なぜ同じ体格でこんなにパワーやスタミナが違うんだろうと。カザフの選手などは、「なぜ日本人はそんなに肉を食べないんですか」と聞いてくるぐらい食べます。日本人が4人で食べるぐらいの量を1人で食べる。そういう違いを補うためには、日本人は稽古しかない。体が悲鳴を上げて壊れるか、壊れずに何とか保てるか、そこまで稽古しないとこれからは勝てないと思います。



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