塚本選手の勝因は“思い出した”こと

塚本徳臣の完全復活、初の男女共同開催など、多くの注目と興奮を呼んだ第38回全日本空手道選手権大会。選手強化委員長の三好一男師範の目に、今大会はどのように映ったのか?07年10月に控える第9回全世界空手道選手権大会に向けた展望とともに、話を聞いた。
今大会は、塚本選手が見事な復活を遂げる結果となりました。
三好 彼のうまさと、いい意味でのずるさの勝利でしたね。

具体的には、どういう点ですか。
三好 決勝戦で、塚越選手に組手をさせなかった点です。塚本君の間合いで闘っているものだから、塚越君が得意とする中段突きや下段がクリーンヒットしていない。塚本選手は久野選手との準々決勝で右足にダメージを負っていたにもかかわらず、そこを攻めさせなかったんです。

再延長の残り30秒ほどは、打ち合いになりました。
三好 その頃になったら、塚本選手の頭には体重判定で勝てるという考えもあったでしょう。30秒くらいであれば、ラッシュに来られても我慢できる。もしも塚越選手が本戦や一回目の延長でラッシュを仕掛けていたら、流れは全く違ったでしょう。

なぜ、塚越選手は終盤まで距離を詰められなかったのでしょうか。

三好 決勝までに何度も炸裂していた塚本選手のヒザ蹴りの残像が、頭のなかに残っていたのでしょう。だから、塚越選手は懐に入ることができなかったのだと思います。

塚本選手は四回戦の酒井裕樹戦と準々決勝の久野浄英戦では技有り、準決勝の鈴木国博戦では一本を上段ヒザ蹴りで奪っています。
三好 まず酒井選手ですが、彼はちょっとガードが低い。そのうえ正面から入ってくるタイプだから、塚本選手にとってはじつに対応しやすいスタイルだったと思います。もしも酒井選手に塚越選手くらいの圧力があったら、話は別だったでしょう。ですが、彼はまだそういったものを持ち合わせていません。塚本選手でも止め得る圧力であったし、カウンターを狙いやすい相手だったということです。

久野選手には、どうしてヒザ蹴りが当たったのでしょうか。

三好 あの試合は、塚本選手が8割方負けていたと思います。下段蹴りを少し受けただけで、ぐらついてしまうくらいのダメージを負っていましたから。ところが途中、塚本選手が金的を受けた。あそこでインターバルを置いたことで、冷静になれたのでしょう。そして、出会い頭に上段ヒザ蹴りをヒットさせた。金的がなければ、あのまま久野選手が押し切っていたと思います。

あの金的が、明暗を分けた。
三好 そこが彼の強運なところですね。そのうえ、わずかな隙を突いてKOできる技を持っているという強みがある。鈴木選手が準決勝で見せたのも、本当にわずかな隙ですよ。そこを突いて一本を取れる一撃必殺の技を持っているというのが、彼の勝因でしたね。

鈴木選手が見せたわずかな隙は、塚本選手が作り上げたものですか。
三好 むしろ、自然と生まれたものでしょう。鈴木選手はチャンピオンの地位を守ってきましたが、それに対する重圧も少なからずあったと思います。そして、塚本徳臣という男の意外性に警戒心を抱きすぎたことで、逆にわずかな動きの遅れが生まれた。本来であれば、鈴木選手ほどの男があのヒザ蹴りをもらうわけがない。誰もが、そう思ったことでしょう。ですが、それでもヒザ蹴りを当ててしまうのですから、塚本徳臣という男はまさしく天才ですね。

では、塚本選手がこれまでと比べて変化していた部分は。
三好 彼は打ち合いに弱いという話が、ここ何年かは出てきました。そこを克服しようと本人なりに試行錯誤していったなかで、組手のことですごく悩んでいたみたいなんですよ。悩んでいたけれど、闘っていくなかでKOアーティストと言われていた頃の技のタイミングを思い出した。最初は打ち合いにもこだわりを持っていたのでしょうが、自分にはこんなにすごい技があるということに再び気付いたんですよ。そんなすごい蹴りを打ち合いの流れから出せるようになったら、もう彼の攻撃には誰も対処できなくなってしまうことでしょう。

また、今大会は初の男女共同開催でもありました。女子選手の活躍については、どのように思いますか。
三好 優勝した佐藤弥沙希選手はもちろん、福田美み子選手、兼光のぞみ選手、砂川久美子選手は、新極真女子の4強でしょう。全日本大会で男女の部をそれぞれ一緒にやるというのは、革命的なこと。正直、女子を取り入れたことで選手や観客が白けてしまうのではないかという、今大会を不安視する意見もありました。

その意見は杞憂でしたね。
三好 はい。彼女たち4人の頑張りで、次回以降の全日本も男女共同開催になりそうです。これで世界大会やウェイト制に続き、全ての大会で男子と女子のチャンピオンが生まれるシステムが確立したわけです。

激戦を勝ち抜いた女子選手たちは、世界大会で勝てそうですか。
三好 ヴェロニカ・ソゾベトスのようなスーパーウーマンと闘うわけですが、厳しい闘いが待ち受けているのは確かでしょう。ですが、彼女たちなら世界の強豪を迎え撃てるに違いありません。11月にはユースの合宿が行なわれ、2月には強化合宿が控えています。男女とも、今後ののびしろに期待してください。

 

女子4強が、革命的なシステムを確立させた

優勝した佐藤弥沙希をはじめ、新極真の女子選手が残した功績はあまりに大きい
決勝で、塚越選手が懐に入れなかったのは…

四回戦で酒井裕樹に上段ヒザ蹴りを決めて、技ありを奪った塚本。準々決勝で久野浄英、準決勝では鈴木国博にもヒザ蹴りを叩き込んでいる
なぜヒザ蹴りは当たったのか?


塚本は決勝戦で、塚越が得意とする突きや下段蹴りをほとんど出させなかった。塚越が間合いを詰められなかったのは、トーナメントならではの妙があったという
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